(89)消せない灯火
「フッフッフ。さすがはイーチィだ。よく気がついたね!」
いつの間にか倒れたはずのマスターガンダムは消えていた。
さながら煙のように。
声だけが辺りに響く。
「まさか! 生きていたのか!」
「ボクは人間とは違う・・・。マキーナ・サピエンスは、簡単には死ねないのさ」
勝ち誇ったようなタッカーの声が、絶望的な響きを伴ってトラッシュを打ちのめした。
マキーナ・サピエンス。
Gシステムから創造された人工生命体。タッカーとイーチィ、2体しか存在しないヒトではない人間。それらは、人間の能力を遥かに凌駕していた。
爆発の炎と衝撃にも耐える肉体。四肢を失っても生き残ることができる体力。そして苦痛をも感じない精神力。全て人間にはなく、人類が追い求めてやまないテーマでもある。
皮肉なことにその不老不死の能力を、『人類が生み出した生命体』が持っているのだ。
マキーナ・サピエンスがどのような趣旨を持って開発されたかは、今となっては分からない。
どのような機能・宿命・役割を持っているのか。マキーナ・サピエンスがどのように人間を感じているのか。
分からない。
そもそも人間同士だって分かり合えることはできていないのだ。
「・・・まもなく大破壊がはじまる。もう誰にも止めることはできない。全てが滅びるんだ・・・。ハーハッハッハッ!」
その言葉を最後に、タッカーの気配が消えた。
耳を覆いたくなるような静寂だけが残る。
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